第二著者として主に統計分析を担当した論文(第一著者:髙柳伸哉)が、日本教育心理学会2023年度優秀論文賞を受賞しました。思春期における自傷行為の発生に至るプロセスを明らかにするため、約4000名の中学生から得られた大規模縦断データに基づき、中学3年生で初めて自傷行為を経験した生徒の過去3年間の心理社会的適応の軌跡を検証した論文です。慢性的な不適応傾向と急性的な適応の悪化の両方が自傷行為の発生リスクとなることを国内で初めて示しました。
髙柳 伸哉, 伊藤 大幸, 浜田 恵, 明翫 光宜, 中島 卓裕, 村山 恭朗, 辻井 正次. (2023). 中学3年時における自傷行為の発生に至る軌跡の検証. 教育心理学研究, 71, 62-73.
要旨:本研究では,青年における自傷行為の発生に関連する要因と,自傷行為の発生に至る軌跡の検証を目的とした。調査対象市内のすべての中学生とその保護者に実施している大規模調査から,自傷行為の頻度やメンタルヘルス,対人関係不適応,発達障害傾向等について質問紙による3年間の追跡調査を行った5つのコホートの中学生4,050名(男子2,051名,女子1,999名)のデータを用いた。中3自傷発生群と非自傷群について,各尺度得点のt検定の結果と,非自傷群の中学1年時の得点を基準とした各尺度z得点による3年間の軌跡を比較した結果から,中3自傷発生群は3年時に非自傷群よりもメンタルヘルスや家族・友人関係で問題を抱えていることに加え,1・2年時でも抑うつなどが有意に高いことが示された。中学1―3年時におけるz得点の軌跡からは,中3自傷発生群は非自傷群と比べて1年時からすでにメンタルヘルスや友人関係・家族関係等での不適応が高いこと,3年時にかけて両群の差が開いていくことが示された。本研究の結果,中学3年時に自傷行為の発生に至る生徒の傾向と3年間の軌跡が明らかとなり,自傷行為のリスクの高い生徒の早期発見と予防的対応につながることが期待される。