研究テーマ

非加熱調理の新しい役割を示す研究

調理の新たな意味づけを行う試みの一つとして、下処理によるアレルギー様食中毒予防について取り組んでいます。食品中に蓄積した多量のヒスタミンを摂取すると顔面紅潮などのアレルギー様の症状を呈することがあり、アレルギー様食中毒と呼ばれています。多くの食中毒対策に有効な、加熱による対策ができないため、他の対策が求められています。これまでアレルギー食中毒対策として、ヒスタミン産生酵素であるヒスチジン脱炭酸酵素(HDC)に着目して研究を行ってきました。HDC活性を阻害するハーブ熱水抽出液を特定し、その抽出液にサバの切り身を数分浸漬させたところ、コントロールと比較してヒスタミン蓄積が抑制されることを確認しました。このことから、食中毒を起こす可能性があるサバなどの赤身魚の下処理として、HDC活性阻害効果を有するハーブ水溶液に浸漬させることが、食中毒予防に効果的であることが示唆されました。このように下処理などの非加熱調理によってアレルギー様食中毒を予防する方法を検討しています。

2023年は、食品成分によるヒスタミン産生菌の生育抑制とヒスタミン蓄積抑制と、豆苗由来のジアミンオキシダーゼによる食品中のヒスタミン除去について調べ、院生が学会で発表しました。

食感制御の研究

これまで多糖類ゲルの弾性について、ゴム弾性理論を元に考察してきました。多糖類ゲルの弾性は、ゴム弾性、いわゆるエントロピー弾性で説明する部分と、エンタルピー弾性で説明する部分とが混在していると考えています。エントロピー弾性の特徴として、温度上昇とともに弾性率は大きくなることが知られていますが、この現象はいくつかの食品で見られており、例えばこんにゃくは温かい方が弾性率は大きいです。弾性率の違いは、食感に反映されて温かいときと冷たいときとでは食感が異なります。このように食感の違い、さらには食感そのものに対する科学的根拠を示すことに取り組んでいます。

ゴム弾性をもとに議論した多糖類ゲルについて2023年のFood hydrocolloidsに掲載されました。

キノコ由来新規ゲル化剤の開発

食感改良剤としてゲル化剤は重要ですが、熱可逆性でなおかつ冷却でゲル化し、透明なゲルを形成する素材は限られています。さらに中性でイオンの影響をあまり受けない多糖類ゲル化剤は、寒天(アガロース)しか今のところ用いられていません。新規のゲル化剤を提示し、種類を増やすことが多種多様な食感を生み出すために必要であると考え、食素材からゲル化成分を抽出し、その特性解析に取り組んでいます。現在はハナビラタケと呼ばれるキノコからゲル化成分の多糖類を抽出し、その分子の特性をNMR、サイズ排除クロマトグラフィーまたその多糖類が形成するゲル特性を、レオロジー、熱測定等で調べています。2019年の国際会議では、招待講演でこの研究内容を発表しました。また、研究成果を記した論文が2023年のFood Hydrocolloidsに受理され、掲載されました。

2023年は、キノコ由来βグルカンのゲルについて院生とともにギリシャの国際会議で発表しました。

ビタミンB6依存性アミノ酸脱炭酸酵素の研究

ビタミンB6依存性アミノ酸脱炭酸酵素の触媒機構の解明について、2005年より取り組んでいます。ヒトのヒスチジン脱炭酸酵素(hHDC)の結晶構造を世界で初めて決定し、その情報から、触媒反応に重要な残基を複数特定しました。一つはS354で、Gに置換した変異体は基質特異性が大幅に変化することを見出しました。もう一つはY334で、触媒能変換が生じることを見出しました。これらの研究が評価され、日本ヒスタミン学会の和田博記念賞を2012年に、日本ビタミン学会の奨励賞を2020年に受賞しました。現在も継続して複数のビタミンB6依存性アミノ酸脱炭酸酵素の触媒に重要なアミノ酸残基の特定および触媒機構の解明に取り組んでいます。

HDCの類縁酵素である芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AroDC)についても取り組んでおり、味覚との関係を探る目的で、AroDCを活性化する香辛料の探索を行っています。

イチゴアレルゲンに関する研究

イチゴやモモなどのバラ科植物を摂取したときににみられる口腔アレルギー症候群について、その植物を加熱調理することによって食した時の症状が低減化することが知られています。アレルゲンのタンパク質が熱変性するためと考えられますが、まだ詳細は不明です。この熱変性における構造変化を明らかにすることを目指しています。現在は、イチゴアレルゲンについてNMRでの構造変化の解析に取り組んでいます。

2023年は、イチゴアレルゲンのフラボノイドとの相互作用について、フランスの国際ポリフェノール学会で院生がポスター発表し、トピックス賞を受賞しました。

減塩食の開発

世界的に食塩の摂取量は必要量を超えており、日本においても、食事における減塩が求められています。しかし、塩味を単に減らすだけでは嗜好性の低下により食されなくなるため、何らかの工夫が必要になります。現在は、ハーブや香辛料について、塩味を増強させる効果を示す成分を探索しています。

2023年は、塩味を増強させる可能性があるハーブ・香辛料について、匂いによらない成分による塩味増強効果を示唆する結果が得られ、学術誌に掲載されました。

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