市 育代 (研究内容)

研究内容

超高齢社会にあるわが国の栄養問題として、「栄養過剰」だけではなく、「低栄養」に対する重要性も高まっています。低栄養には十分なタンパク質の摂取が勧められており、その重要性は理解されていますが、脂質栄養に関するエビデンスは不十分です。我々の研究室では、脂質栄養の重要性を明らかにするため、以下のようなテーマで研究を行っています。

 

(1) 必須脂肪酸欠乏時の脂肪酸代謝の変化とその生理的意義

低栄養は種々の疾患の憎悪因子であり、高齢化が進むわが国において重要な社会問題です。食事から摂取しなければならない多価不飽和脂肪酸(必須脂肪酸)は、炭素数18以上、二重結合を2つ以上もつ脂肪酸です。この多価不飽和脂肪酸は生体膜の主要な構成成分であり、生体の恒常性維持に重要であることが知られています。そして食事由来の多価不飽和脂肪酸が欠乏すると、皮膚障害や易感染症、生殖機能異常などがみられることが知られています。さらに、必須脂肪酸が欠乏するとミード酸(C20:3 n-9)といわれる多価不飽和脂肪酸が産生されます。これまで我々は、必須脂肪酸欠乏時のミード酸の産生酵素を同定しました (Biochim. Biophys. Acta., 2014)。現在、必須脂肪酸時にミード酸が産生されるように脂肪酸代謝が変化する機構とそのメカニズムについて研究を行っています。

また、必須脂肪酸時欠乏時に産生されるミード酸は、アラキドン酸やEPAなどの多価不飽和脂肪酸と構造が類似しており、必須脂肪酸欠乏時にこれらの脂肪酸の代替作用を担っている可能性が考えられます。我々は、必須脂肪酸欠乏時のミード酸の生理的役割についても研究を行っております(BBRC, 2018)。

これらの研究より、必須脂肪酸欠乏時に産生される脂肪酸の新たな機能性を明らかにしたいと考えています。

  1. Identification of genes and pathways involved in the synthesis of Mead acid (20:3n-9), an indicator of essential fatty acid deficiency, Biochim. Biophys. Acta, 1841, 204-13 (2014)
  2. FADS2 inhibition in essential fatty acid deficiency induces hepatic lipid accumulation via impairment of very low-density lipoprotein (VLDL) secretion, BBRC, 496, 549-55 (2018)
  3. The effect of polyunsaturated fatty acid deficiency on allergic response in ovalbumin-immunized mice, Prostaglandins, Leukotrienes and Essential Fatty Acids, 164, 102231, (2021)

(2) 高度不飽和脂肪酸の欠乏が病態に及ぼす影響

アラキドン酸やEPA、DHAなどの炭素数20以上の多価不飽和脂肪酸は高度不飽和脂肪酸といわれ、膜の流動性に影響を及ぼし、その代謝物も含めて生理活性を有する脂質として注目されてます。そして、哺乳動物は食事由来の炭素数18の多価不飽和脂肪酸を炭素数20以上の高度不飽和脂肪酸に変換することができます。我々はこの産生酵素であるFatty acid desaturase 2 (FADS2)の欠損マウスに多価不飽和脂肪酸欠乏食を与え、食事由来の高度不飽和脂肪酸(アラキドン酸やEPA、DHAなど)と内因性の高度不飽和脂肪酸(ミード酸)の両方が欠乏したマウスを用いて、糖尿病や脂肪肝、筋萎縮、食物アレルギーなどの病態に対する高度不飽和脂肪酸の重要性を明らかにするための研究を行っています。

多価不飽和脂肪酸の種類によって、必須脂肪酸欠乏時の病態に対する影響が異なるかを明らかにし、脂肪酸の栄養が低栄養改善の新たな食事療法となりうる可能性を提示したいと考えています。

  1. Ablation of fatty acid desaturase 2 (FADS2) exacerbates hepatic triacylglycerol and cholesterol accumulation in polyunsaturated fatty acid-depleted mice, FEBS letters 595, 1920-1932 (2021)

(3)食事由来の酸化コレステロールが生体に及ぼす作用に関する研究

動物性食品に含まれるコレステロールの一部は、加工、調理、貯蔵中にラジカル的な酸化反応によって酸化コレステロールになります。我々は、このような食事由来の酸化コレステロールが肝臓や骨格筋の機能に及ぼす影響について研究を行っています。

(4)脂肪滴の肥大化における脂肪滴膜リン脂質の脂肪酸鎖の生物学的意義

脂肪細胞では過剰な脂肪蓄積や脂肪滴同士の融合により脂肪滴は肥大化します。脂肪滴は他の細胞小器官と異なり、中性脂肪をリン脂質の一重膜で覆われた特徴的な構造をしています。我々はこれまで、白色脂肪細胞において脂肪滴の肥大化とともに脂肪滴膜のリン脂質の脂肪酸組成が変化すること(J. Biochem., 2013)や膜リン脂質の脂肪酸が脂肪滴の大型化に関わる可能性を明らかにしています(BBRC, 2016)。最近、脂肪滴表面を囲むリン脂質膜は、膜表面の物理的性質を調節することで脂肪滴のサイズを制御していることが明らかになってきています。

我々は、脂肪滴の表面を囲む膜リン脂質の脂肪酸が脂肪滴の大きさの調節に関わっているかについて研究を行っています。

  1. Changes in the phospholipid fatty acid composition of the lipid droplet during the differentiation of 3T3-L1 adipocytes, J. Biochem., 154, 281-9 (2013)
  2. Saturated fatty acid in the phospholipid monolayer contributes to the formation of large lipid droplets, BBRC, 480, 641-7 (2016)

 

 

 

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